2025年6月17日

中立とは何か?豊橋新アリーナ問題で考える
豊橋市で進められている新アリーナ建設計画。昨年秋の市長選で当選した長坂市長は、選挙戦でこの計画の見直しを公約に掲げ、就任後にはその方針どおり計画を中止しました。しかし、建設を進めたい市議会との対立は深まり、最終的にはその是非を問う住民投票が、参議院選挙と同日である7月20日に実施されることになりました。
その住民投票を目前に控えた今、地域の中立性を揺るがすような出来事が次々と表面化しています。そのひとつが、市教育委員会の判断によって、市内3つの小学校体育館で予定されていた建設推進派による説明会が突然中止されたという報道です。

突然の説明会中止・教育委員会の判断と混乱
市民団体「新アリーナ・豊橋公園整備を応援する会」は、富士見・松山・つつじが丘の各小学校で説明会を行う予定でした。しかし、6月11日、市の教育委員会が「政治的目的での施設利用は認められない」として各校長に対して使用中止を通達。結果として、すでに利用許可を得ていた団体に対して、直前になって「会場が使えない」と連絡が入る形となりました。
教育委員会は「住民からの問い合わせで、施設が政治的な目的で使われると判明した」「初の住民投票という状況で、市としても手探りだった」と釈明しますが、主催者側は「手続き完了から半月以上経ってからの中止はあまりに唐突だ」と、対応の不備を指摘しています。
僕自身、似たような違和感を覚えた場面に遭遇しました。
自治会の総会に置かれた一方的なチラシ─・地域団体の政治的利用?
僕は「住みよいまちづくりの会」という地域団体に所属しています。この住みよいまちづくりの会というのは、地域の子どもたちの見守り活動や防犯パトロールを行う、住民によるボランティア組織です。自治会は年度ごとで役員や組長が変わってしまいますが、この住みよいまちづくりの会はメンバーが継続して関わるため自治会の活動を補完する組織として位置づけられています。先日行われた総会では、小中学校の教頭先生や警察の方、市議会・県議会の議員も来賓として出席されていました。
総会当日、会場に入ると、机の上には「豊橋新アリーナを求める会」のチラシが置かれていました。そのチラシを持ち込んだのは、自民党市議団に所属する建設推進派の市議会議員。しかも挨拶の場で「私は新アリーナ建設を推進しています」と明言していました。
この総会は、本来「地域の安全」や「子どもたちの健やかな環境づくり」を目的とした活動報告と今後の取り組みを確認する場です。そこに突然、一方的な立場のチラシが配布されていたことに、僕は違和感を覚えました。
チラシには「豊橋の未来のために」「スポーツで地域活性化を」といった前向きな言葉が並びます。しかし、その裏でこの問題に反対する意見や疑問の声にはまったく触れていません。
地域団体や自治会は政治とどう向き合うべきか
もちろん、地域に暮らす私たちが政治に無関心であってはいけません。行政の動きや政策の影響は、地域の暮らしに直結しますから。しかし、地域団体や自治会といった「中立性」が求められる組織が、特定の立場に引き込まれてしまえば、信頼を損ねることになります。
ましてや、豊橋新アリーナ問題のように市民の意見が真っ二つに分かれているテーマであればなおさらです。賛否を問う住民投票が決まっている状況で、公共施設や地域団体が一方の主張に偏った使われ方をすることには、慎重であるべきです。
封書で届いた推進派候補からのメッセージ・個人情報の取り扱いに疑問
さらに不信感を覚えた出来事があります。昨年の豊橋市長選挙の時、ある豊橋新アリーナ建設推進派の市長候補者から、僕のもとに封書が届いたのです。その封書は「内部資料」として選挙事務所の開設の案内のような内容でした。選挙人名簿をもとに送られるハガキと異なりわざわざお金のかかる封書で送られて生きています。僕はその候補者の集まりに出たこともなければ、連絡先を教えた覚えもありません。
唯一心当たりがあるのは、僕が自治会長を務めていたときに、市に提出した自治会長名簿の存在です。それが選挙活動に使われたのだとすれば、明らかな目的外利用です。この件について直接その候補者に問い合わせましたが、返答は一切ありませんでした。
また、これはPTA会長をしていたときにも感じたことですが、卒業式や入学式の場では、国会議員や県議会議員など政治家からの祝電が紹介されることがあります。一見お祝いの形式をとっていますが、そこに違和感を覚えることも少なくありませんでした。
さらに、自治会の総会が近づく時期になると、「総会の開催おめでとうございます」と書かれた封書が、自宅に直接届くこともありました。差出人は選挙区の議員。封書の中のチラシにはその議員の顔写真が大きく印刷されていて集会場の掲示板に貼ってほしいとの文書が入っています。僕はその議員と個人的な接点もなく、住所を知らせた覚えもないのに、なぜ送られてくるのか。
これも自治会長やPTA役員の名簿を通じて収集されたのではないか、という疑念を拭えません。地域団体の代表者がこうしたかたちで政治に巻き込まれるような状況は、はたして適切と言えるのでしょうか? 議員の広報活動であっても、送り先が自治会や町内会の代表であることを前提とした情報の扱いには、慎重さと透明性が必要です。
地域活動の本質を取り戻すために
僕は、地域活動というのは誰にとっても安心して参加できる場であるべきだと思っています。政治的な立場や意見を越えて、「地域の安全」や「人と人とのつながり」をつくることが目的です。
しかし、もしその活動が知らず知らずのうちに政治利用されていたとしたら? たとえそれが「良かれと思って」の行動であっても、結果として中立性を損ね、活動全体の信頼性が失われてしまう恐れがあります。
政治的なテーマと無縁でいることはできませんが、大切なのは常に「公平であること」「異なる意見にも耳を傾けること」です。そして行政もまた、市民の活動が無駄にならないよう、丁寧で一貫性のあるルール運用が求められます。
おわりに
豊橋新アリーナ問題は、単なる施設建設の是非を超えて、私たち市民と行政、そして地域社会と政治の関係性そのものを問いかけているように思います。
だからこそ、私たち一人ひとりが「地域活動とは何か」「中立性とは何か」に向き合い、自分の頭で考え、声をあげていくことが求められているのではないでしょうか。