来年に迫った「令和のひのえうま」

来年に迫った「令和のひのえうま」

子どものころに気づいた「切り欠き」

子どものころからずっと不思議だったことがあります。それは学年ごとのクラス数の違いです。1965年生まれのぼくの学年は6クラス。でも、そのひとつ下の1966年、いわゆる「ひのえうま」の学年になると、なぜか5クラスに減っていました。そしてさらにその下の学年をのぞいてみると、また6クラスに戻っていたんです。この「へこみ」のような数字の流れを見て、子ども心に「なんでここだけ人数が少ないんだろう?」と不思議に思った記憶が残っています。

当時から「ひのえうまの年に生まれた女の子は気が強くて、夫の命を縮める」という迷信があるらしい、という話はうっすら耳にしていました。でも、それが本当に出産にまで影響していたなんて知りませんでした。大人になってから振り返ると、1966年の出生数は前年より大きく減っていて、学校のクラス数にまで表れていたのだと分かり、妙に納得してしまいました。

「ひのえうま」ってそもそも何?

干支は十干と十二支を組み合わせて60年でひと回りします。その中で「丙午(ひのえうま)」は火の性質を持つ「丙」と、勢いの強い「午」が重なる年。昔から「ひのえうまの女性は気が強く、夫を早死にさせる」なんて俗信が広まっていたそうです。もちろん根拠なんてないんですが、昔は本気で信じられていました。

1966年にはその影響がはっきり数字に出ています。前年の75%にまで出生数が落ち込み、46万人もの子どもが「生まれなかった」計算になります。合計特殊出生率も1.58と戦後最低を記録。当時の経済は高度成長期で生活も豊かになりつつあったのに、迷信のせいでこれだけ数字が動いてしまったのです。

迷信が残した現実

「ひのえうまの子は不吉」と言われ、妊娠を避けたり、出産を翌年にずらしたりする家庭がたくさんありました。なかには出生届を翌年にずらして提出した、なんて話も伝わっています。全国的に一律というわけではなく、宗教や地域の文化によって差があり、浄土真宗の教えが強い地域では極端な避妊や嬰児殺を戒めていたため影響が小さかったという研究もあるそうです。

でも実は「恩恵」もあった世代

1966年に生まれた「ひのえうま世代」は人数が少なかった分、思わぬメリットを受けた人も多いんです。クラス数が減って先生の目が届きやすかったり、部活でライバルが少なくレギュラーになりやすかったり。大学入試や就職のときも、同期が少ないことでチャンスに恵まれたという声があります。

ぼく自身、大学受験のときに1年浪人しましたが、この「切り欠き」のおかげで志望校に合格できたのかもしれません。人口が少なかった世代の余波が、ぼくたちの進路にまで影響していたと考えると不思議なものです。社会学者の吉川徹教授も「ひのえうま世代は競争が少なく、その分チャンスをつかみやすかった」と評価しています。迷信が残したマイナスの影響は大きかったけれど、結果的にプラスに作用した部分もあったというわけです。

令和の「ひのえうま」2026年はどうなる?

そして気がつけば来年2026年が再び「ひのえうま」です。とはいえ、1966年のように極端な出生数の落ち込みが起きる可能性は低いでしょう。そもそも今の日本はすでに深刻な少子化の中にあります。2023年の合計特殊出生率は1.20と過去最低を更新、出生数も72万人あまりにとどまりました。迷信がどうこう以前に、子どもの数が減り続けているのが現実です。

さらに時代も変わりました。今では「ひのえうま?聞いたことがない」「そんな迷信、気にしない」という人がほとんど。教育や情報の広がりで、迷信に出産を左右される人はほとんどいないと考えられます。専門家も「現代の夫婦は合理的に出産計画を立てるので、ひのえうまを理由に出産を避けることはない」と言っています。行政も2026年を特別視しておらず、保育や子育て支援といった一般的な少子化対策に力を入れる方針です。

未来への問いかけ

子どものころに見た「切り欠き」の記憶を思い返すと、どうしても来年が気になってしまいます。あのときのように数字のへこみが生まれるのか、それとも迷信はすでに力を失って、少子化の波にのみ込まれていくのか。

大切なのは迷信に振り回されることではありません。むしろ、確かな数字を見据えて「減る一方の子どもたちに何を残すのか」「これからどんな社会を築いていくのか」を考えることだと思います。来年のひのえうまを迎えるにあたって、半世紀前の「切り欠き」の記憶を未来への問いかけにつなげたい。そんな気持ちで今、この文章を書いています。

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