2025年5月31日

昨日、「住みよいまちづくりの会」の総会に出席しました。この「住みよいまちづくりの会」は、私が住む地域で立ち上げられた自主的な団体で、主に子どもたちの登校時の見守り活動や防犯パトロールを行っており、地域の自治会をサポートする役割を担っています。
さて、その総会の会場である自治会の集会場に足を踏み入れると、机の上にあるチラシが置かれていました。「豊橋新アリーナを求める会」と書かれたそのチラシは、明らかに政治的な主張をもったものでした。持ち込んだのは、来賓として出席していた豊橋市議会議員。しかも、その方は「私はアリーナ建設推進派です」と明言もされています。
地域活動の報告と今後の取り組みを確認する大切な「住みよいまちづくりの会」の総会。その中で、なぜこのようなチラシが配布されているのか?私は言いようのない違和感を覚えました。
「住みよいまちづくりの会」について
僕が住む地域の自治会は、約500世帯の会員で構成されています。自治会の役員や組長は基本的に1年ごとに交代するため、地域活動の継続性に課題がありました。そこで自治会の有志が集まって「住みよいまちづくりの会」という団体を立ち上げ活動しています。
この住みよいまちづくりの会は、年度ごとに交代する自治会の役割を補完し、地域活動の安定した継続を目的としています。特に子供たちの登校時の見守り、自治会内の防犯パトロール、地域のほかの団体との連携などの分野で成果を上げており、地域からも信頼されています。
総会は年に1回の大切な節目。警察署、小中学校、議員などの来賓を招き、地域の現状を共有し、連携を深める機会です。だからこそ、本来の目的とは無関係な政治的主張が持ち込まれたことに、僕は危うさを感じました。
住みよいまちづくりの会の総会に持ち込まれたチラシと議員の発言
その議員は、自民党市議団に所属しており、豊橋新アリーナの建設を強く推進している立場です。チラシには「未来のために」「地域経済の活性化」「スポーツ文化の拠点」といった前向きな言葉が並んでいました。
一見すれば魅力的なメッセージですが、あくまでも建設推進派のチラシですので隅々まで見てみても反対意見や懸念に対する言及は一切ありません。市民の間で賛否が分かれていることを考えると、このように「一方の主張だけ」を掲げる広報物を、地域団体の総会で配布することには疑問を持たざるを得ませんでした。
豊橋新アリーナ問題のこれまでの経緯
豊橋市の新アリーナ構想は、実は一朝一夕に出てきた話ではありません。以下に、その経緯を簡単にまとめます。
2016年~2020年:佐原市政下で豊橋新アリーナ構想始動
- 三遠ネオフェニックスのBリーグ参入を機に、豊橋市がアリーナ建設を構想。
- 当時の佐原市長が安倍政権下で首相官邸でプレゼンを行うなど、積極的にPR。
2020年11月:浅井市長が就任
- 公約では豊橋新アリーナについて「ゼロベースで見直す」「豊橋公園内での建設はしない」と明言。
2022年5月:突然の豊橋新アリーナ建設計画発表
- 浅井市長が一転、豊橋公園内での新アリーナ建設を表明。
- 市民からは「公約違反だ」と強い批判。
2023年:豊橋新アリーナ建設反対運動と費用増加
- 市民団体が豊橋新アリーナ建設の是非を問う住民投票を求める署名活動を展開。
- 市は基本計画を公表し、豊橋新アリーナ建設の総事業費は230億円を超える見込みに。
2024年11月:長坂市長に交代
- 長坂尚登市長が誕生し、豊橋新アリーナ建設計画の白紙撤回を表明。
- これに対抗する新アリーナ建設推進の市議会が、豊橋新アリーナ建設契約解除に議決を必要とする条例を制定。
- 市長は条例取り消しを求めて裁判に踏み切る。
2025年:住民投票へ
- 5月、住民投票条例が可決。
- 7月20日、「多目的屋内施設及び豊橋公園東側エリア整備・運営事業」継続の是非を問う投票が行われる予定。
地域活動の現場が「政治の場」になることへの懸念
本来、地域団体の活動は政党や政治的立場から距離を置いた中立性が求められます。「住みよいまちづくりの会」の総会は、まさに地域の生活を支えるための協議の場です。
そのような中で、一方的な立場の主張だけが持ち込まれると、会の趣旨を損なうだけでなく、会員の中に不信感や分断を生む可能性があります。
特に、自治会やその支援団体は地域において強い影響力を持つ存在です。だからこそ、そこが政治活動の足場として利用されることには、慎重な姿勢が必要です。
自治会と政治の「適切な距離感」とは?
地域住民として政治に関心を持ち、意見を伝えることはとても重要です。しかし、「政治的な意思表明」と「中立な地域運営」は別の話です。
豊橋市自治連合会が作成している「自治会活動の手引き」にも、自治会は政治的中立を保つべきであるという旨が明記されています。
組織の名前や影響力を使って、特定の政策に肩入れしてしまうと、それを好まない住民が参加しにくくなり、地域全体の活動基盤が揺らいでしまいます。
地域の「信頼」を壊さないために
地域活動は「誰もが安心して参加できる場」でなければなりません。ときに意見が分かれるようなテーマでも、「お互いの立場を尊重し合う」ことができるのが理想です。
そのためには、地域団体が政治的中立をしっかり守り、対話の土壌を育てる必要があります。一部の声を「地域全体の声」と錯覚させるような動きは、長期的には活動そのものを停滞させてしまう可能性もあるでしょう。
おわりに:この問題を他人事にしない
豊橋新アリーナ問題は、単に「施設を建てるかどうか」だけではなく、私たち市民が「どのように政治と向き合うか」「地域での民主的な意思形成をどう支えるか」という、本質的な問いを私たちに投げかけています。
誰かが決めるのではなく、私たち一人ひとりが「知り、考え、参加する」こと。住民投票はその大切な機会です。
そしてもう一つ、私たちが大切にしなければならないのは、地域のつながりです。地域をよりよくしたいという思いは、政治の立場を超えて多くの人が共通して持っているはずです。その思いを壊さないためにも、「政治的な色」に染まらない地域活動のあり方を、私たちはこれからも模索し続けていく必要があります。