2025年7月24日

豊橋新アリーナ住民投票を終えて見えたこと
先日行われた豊橋新アリーナ建設の是非を問う住民投票では、「建設に賛成」が反対を上回る結果となりました。この結果は民意の一つの表れとして受け止めつつも、その過程で強く感じたのは、情報発信力の非対称性です。
アリーナ建設に賛成する財界や関係団体は、潤沢な資金と組織力を背景に、大判のチラシやポスターなどを使って積極的に情報を発信していました。街なかでポスターや看板で目にする機会も多く、情報の露出度において圧倒的な優位があったように思います。
一方で、反対の立場を取る市民団体には十分な予算がなく、配布するチラシはサイズも限られ、ポスターの枚数もごくわずか。情報発信の手段は明らかに限られていました。
そのような中、SNSを通じて意見を発信する市民の姿も目立ちましたが、SNSでは情報が流れやすく、誤解や混乱、さらには感情的なやりとりへと発展する場面も少なくありませんでした。短期間で多くの市民に、正確かつ冷静な情報を伝えることの難しさ。そして、「どこを見れば正確な情報がまとまっているのか?」という問いに明確に答えられる媒体の必要性を、改めて痛感しました。
市民活動が健全な民主主義を支えるものであるならば、その声には「届く仕組み」が不可欠です。今回の住民投票を通じて浮かび上がったのは、「声を上げること」だけでなく、「声を正しく届け、共有し、記録として残すこと」の重要性でした。そして、その鍵を握るのが、公式ウェブサイトという存在なのです。
SNS時代の「情報の洪水」とその限界
現代はSNS全盛の時代です。X(旧Twitter)やInstagram、Facebookといったプラットフォームでは、誰もが気軽に情報を発信でき、特に公共事業や政治的テーマに関しても、市民が意見を表明しやすい環境が整っています。実際、豊橋新アリーナの住民投票に関しても、SNS上では賛成・反対を問わず多くの市民が意見を発し、拡散されていきました。
しかしその一方で、SNSには情報が「流れてしまう」特性があります。タイムラインに表示される情報は時系列にどんどん押し流され、数日もすれば重要な投稿ですら埋もれてしまう。さらに、限られた文字数や画像だけで意見を伝えることには誤解も生じやすく、感情的なやり取りへと発展するケースも少なくありません。
特にコメント欄では、誤情報や根拠のない批判、さらには罵詈雑言までもが飛び交い、建設的な議論が困難になる場面もしばしば見受けられました。SNSは誰でも声を上げられる一方で、その声が正しく伝わらなかったり、必要な文脈が省略されたまま独り歩きしてしまうリスクも抱えています。
このような「情報の洪水」の中では、どこに信頼できる情報があるのか、何が事実で何が憶測なのかを見極めるのが難しくなります。だからこそ、市民活動においては、SNSとは別に「冷静に情報を整理し、正確に伝え、記録として残す場」が必要です。SNSはあくまで拡散の手段のひとつであり、基盤となる情報の蓄積場所、すなわち公式ウェブサイトの存在が、今こそ重要性を増していると感じています。
市民団体サイトの立ち上げと運用の経験

今回の住民投票にあたって、ぼくは「豊橋公園の緑を未来につなぐ市民の会 豊橋新アリーナ問題を考える」のウェブサイトを、ボランティアで制作しました。住民投票については、ぼく自身「どちらかを選べ」と言われれば「反対」でしたが、決して強く反対活動に関わっていたわけではありません。ただ、先にも書いたように、反対派の市民団体にもきちんとした情報発信のプラットフォームがなければ、圧倒的な資金力と組織力を持つ推進派に「金と力」で一方的に押し切られてしまうと感じていました。

このウェブサイトを公開できたのは6月10日。投票日である7月20日まで、実質的に1か月ちょっとという限られた期間しかなかったことは、今でも悔やまれる点です。もっと早く公開できていれば、SNSでの拡散も含めて「正確な情報を自分で確認できる場所」として、より多くの市民に届けることができたのではないかと思っています。
実はそれ以前にも、「浜松湖西豊橋道路を考える会」のウェブサイトも、同じくボランティアで制作しています。こちらは広域道路計画に対する市民の懸念や視点を伝えるもので、いずれにも共通しているのは、「一次情報をしっかり残しておくことの大切さ」です。誰かが気になって検索したときに、正確な情報が整理されていて、しかも見やすく提示されているということは、それだけで信頼につながります。

また、地元紙では扱われないような細かな動きや資料、市民説明会の様子、団体の主張なども、ウェブサイトであれば記録としてきちんと残せます。拡散力ではSNSに劣るかもしれませんが、あとからでも確認できる「確かな情報源」としての価値は非常に高いと感じています。情報が錯綜する今だからこそ、市民側にも「記録と伝達の拠点」が必要なのだと強く実感しています。
「浜松湖西豊橋道路を考える会」のウェブサイトを公開したのは2024年3月です。現時点ではまだ情報量は多いとは言えませんが、「浜松湖西豊橋道路」というキーワードで検索すると、国土交通省や沿線市の公式サイトに並んで、平均して検索順位5位以内に表示されます。今後、この道路の話題が表面化してきたときに、検索結果の上位に表示されることは非常に重要だと考えています。
ただ残念なのは、今のところこの道路について関心を持っている市民がほとんどいないという現実です。一方で、計画そのものは着実に進んでおり、この道路を強く望んでいるのも、豊橋新アリーナのときと同様に「財界」です。
独自ドメインとウェブサイトがもたらす「信頼」
市民活動において、情報発信の信頼性をどう確保するかは大きな課題です。その中で、独自ドメインで運営する公式ウェブサイトは、活動の「本気度」や「継続性」を伝える強力な手段となります。たとえば「〇〇.wixsite.com」や「note.mu/〇〇」のような無料サービスでは、気軽に情報発信はできますが、どうしても「一時的なもの」「個人のつぶやき」の印象を与えてしまいがちです。それに対して、「toyohashi-park.org」や「hkt-d.org」のように、独自ドメインを取得して情報を整理し発信していると、それだけで「ちゃんと活動している団体だな」と見てもらえる効果があります。
また、独自ドメインを持ったウェブサイトは、名刺やチラシ、署名用紙などにもURLを掲載しやすく、印刷物とネット情報を連動させることができます。手渡しの資料で関心を持った人が、自宅に帰ってからさらに詳しく調べたいと思ったとき、簡単にアクセスできる場所があることはとても重要です。
さらに、他の市民団体や取材を希望するメディアとの連携の際にも、独自ドメインの存在は説得力を持ちます。活動の趣旨や履歴、公開資料が体系的にまとめられているサイトがあることで、団体の主張に「裏付け」が与えられ、信頼性が格段に高まります。実際、「この資料はどこで見られますか?」と問われたときに、「ウェブサイトにすべて載せてあります」と即答できるのは非常に便利で安心感があります。
SNSは即時性に優れていますが、それだけでは「点」での発信になってしまいがちです。それに対して、独自ドメインのウェブサイトは情報を「面」として蓄積し、必要なときに必要な情報を提供できる、信頼ある土台になります。だからこそ、市民活動においても「自分たちの言葉を、自分たちの場で」届けるための環境づくりが求められているのだと感じています。
市民の声に「場」を与えることが民主主義を守る
市民活動において「声を上げること」は、民主主義の根幹を支える大切な行動です。しかし、本当に重要なのは、その声が「きちんと届く形」になっているかどうかです。どれだけ真剣に訴えても、それが届かず埋もれてしまえば意味を持ちません。声を発するだけでなく、正しく伝え、共有され、記録として残る仕組みが必要です。
SNSは手軽で拡散力に優れたツールですが、どうしても情報が流れていきやすく、一過性のものになりがちです。発言の文脈が切り取られたり、感情的な議論にすり替わってしまうことも珍しくありません。だからこそ、情報を落ち着いて発信し、後からでも誰もが確認できる「拠点」としての公式ウェブサイトの役割は、ますます重要になっています。
公式サイトは、自分たちの活動や思いを、自分たちの言葉で丁寧に伝えることができる場所です。背景や根拠を示し、資料を蓄積し、市民同士や外部の関係者との信頼関係を築く「窓口」にもなります。こうした「場」を持つことは、情報の発信だけでなく、活動の継続性や信頼性を支える基盤にもなります。
ぼく自身、フリーランスのウェブ屋として、これまでいくつかの市民団体のサイトづくりに関わってきました。今後もこうした活動をされている方たちの声が、ただの一過性の「つぶやき」で終わらず、しっかりと伝わり、社会に届くような仕組みづくりのお手伝いができればと思っています。
市民活動は、特別な人だけがやるものではありません。誰かの暮らしや街の未来を思う気持ちがあれば、そこから始められるものです。その想いや行動に「届く形」を与えること。それが、いまの時代における市民活動の一歩であり、民主主義を守るための大切な手段ではないでしょうか。
