豊橋新アリーナ建設と三遠ネオフェニックスの関係をどう考えればいいのか?

浜松・東三河フェニックス

2013年、長女が小学6年生だった頃の話です。長女は地元のミニバスケットボールチームに所属していたこともあり、僕は娘を連れて浜松・東三河フェニックス(当時Bjリーグ)の試合をよく観に行っていました。現在も使われている豊橋総合体育館が会場で、応援の熱気、選手たちの真剣なプレー、そして子どもたちの目が輝いていたのを今でも覚えています。

しかし中学に進学すると、娘はソフトボール部に入り、次第にバスケットボールからは離れていきました。それと同時に、フェニックスの試合を観戦する機会も自然と減っていきました。

当時のフェニックスの試合は、地元のスポンサー企業がチケットを提供していることがあったりして、招待で観戦する人が多く、私自身も有料で観に行った記憶はあまりありません。プロチームとしての活動はしていたものの、「観客をお金を払ってでも呼び込む魅力」がどこまであったかというと、正直なところ疑問が残る部分もありました。

新アリーナ建設計画の概要とその目的

スポーツ・文化・防災を支える新拠点

現在、豊橋市では「新アリーナ建設計画」が進行しています。この計画の背景には、長年市民に親しまれてきた豊橋総合体育館の老朽化という現実があります。建物はすでに築40年近くが経過しており、耐震性能やバリアフリー対応、空調・照明といった設備面でも時代の要求に十分応えられていないとされ、機能の限界が指摘されてきました。これらの課題を解決し、市民の安心・安全を守る新たな公共施設として、アリーナの整備が求められています。

しかし、今回の建設計画は単なる体育館の建て替えではありません。豊橋市が掲げる新アリーナのコンセプトは、地域全体の活力を生み出す「多目的複合施設」です。プロスポーツの試合観戦ができる環境を整備するのはもちろん、音楽コンサートや各種イベント、展示会、地域文化の発信拠点としても機能することが想定されています。5000人規模の観客を収容できる計画もあり、従来の枠を超えた大型施設として、市内外からの集客と経済波及効果を狙ったものです。

さらに注目すべきは、このアリーナが災害時の「防災拠点」として位置づけられている点です。地震などの大規模災害が発生した場合、避難所としての活用はもちろん、物資集積や医療支援の拠点、行政の臨時活動拠点としても使用できる設計が検討されています。地域の安心を支えるインフラとしての機能も併せ持つことで、平時と有事の両面で市民生活を支える施設とする構想です。

このように、豊橋市の新アリーナ建設計画は、老朽化した体育施設の更新にとどまらず、「スポーツ」「文化」「防災」という3つの柱を基軸に、市民の日常と地域の未来を見据えた拠点づくりを目指す、極めて重要な公共プロジェクトであると言えます。市民にとってどれだけ身近で、必要な施設となるかが、問われています。

三遠ネオフェニックスの現状と新アリーナの必要性

Bリーグプレミア参入への課題と期待

三遠ネオフェニックスは、豊橋市を拠点に活動するプロバスケットボールチームとして長年地域に根差した活動を続けてきました。2025年5月には、Bリーグ・チャンピオンシップ準々決勝において強豪宇都宮ブレックスを下し、クラブ史上初の準決勝進出という快挙を成し遂げました。この快進撃は地域に大きな興奮と誇りをもたらし、地元のスポーツシーンを盛り上げる象徴的な出来事となりました。

一方で、Bリーグは2026年シーズンから新たに「Bリーグプレミア」という上位リーグを創設し、国際基準を意識した本格的なプロ化を進めています。このプレミア参入にあたっては、競技力や経営体制だけでなく、使用するホームアリーナの水準も厳格に定められており、観客席数、照明・音響設備、VIP対応、バリアフリー構造など、世界水準に準じたインフラの整備が求められています。

しかし現在、三遠ネオフェニックスが使用している豊橋総合体育館では、このプレミア基準を満たすことが困難であるのが現状です。1978年に建設された同施設は、収容人数も限られ、プロスポーツの興行に必要な演出設備や観客の快適性、安全性の面でも大きな課題を抱えています。このままでは、いくらチームの成績が優れていても、アリーナの基準不足によってBリーグプレミアへの参入が阻まれる可能性も現実的にあります。

新アリーナの建設は、単に施設を新しくするという意味合いにとどまりません。それは、三遠ネオフェニックスという地域密着型クラブが、全国・世界レベルの舞台で戦い続けるための「資格」を得るための前提条件であり、地域に根差したプロチームの発展と存続を支える土台でもあるのです。スポーツの力が地域の誇りを育て、未来の子どもたちの夢につながるためにも、アリーナ整備は避けて通れない重要な投資だといえるでしょう。

市民の意見と住民投票の実施

問われるのは「施設の是非」だけではない

豊橋市が進める新アリーナ建設計画は、市政における一大プロジェクトでありながら、市民の間ではその必要性について意見が大きく分かれています。華やかなイベントやプロスポーツの開催による地域活性化、防災拠点としての多機能化に期待を寄せる声がある一方で、「本当にいま必要なのか」「建設費や維持費は誰が負担するのか」といった慎重な意見も根強く存在しています。

こうした状況を受け、2025年5月には新アリーナ建設の是非を問う住民投票の実施が正式に決定されました。市がこれまで実施してこなかった大型事業に関する直接民主制の手続きが取られることになり、市民にとっては、自らの意志でまちの将来を選択する機会が与えられたとも言えます。

建設に賛成する立場の市民からは、「新しいアリーナがあれば地域経済が潤い、若い世代に夢を与えられる」「災害時の避難拠点としても使えるから安心だ」といった前向きな声が挙がっています。一方で反対の立場からは、「約230億円という巨額の建設費を市民の税金で賄うのは納得できない」「その後の維持管理費が重荷になり、他の福祉や教育にしわ寄せがいくのでは」といった財政面の懸念が語られています。

また、「本当に市民のための施設なのか」「結局はプロチームのための箱物になるのではないか」といった不信感も根底に存在しています。こうした意見の対立は、単に建物を建てるかどうかという二者択一ではなく、市民と行政の信頼関係や、税金の使い方に対する価値観の違いが反映されたものでもあります。

住民投票は、このような複雑な背景を持つ計画について、市民が意思を示す貴重な機会です。その判断は、単なる賛否にとどまらず、「どんなまちにしたいのか」「どんな未来を選ぶのか」といった、地域のあり方そのものを問い直す機会にもなるでしょう。市民一人ひとりが当事者として考え、声を届けることが今、求められています。

スポンサー企業と建設費用の負担についての不信感

「誰のための施設か」が問われている

新アリーナ建設にかかる総事業費は、現時点で約230億円と見積もられています。これほど大規模な公共投資が行われるにもかかわらず、その大部分を豊橋市が税金で負担する計画であることが、今、強い議論を呼んでいます。市民の間では、なぜプロバスケットボールクラブである三遠ネオフェニックスや、それを支えるスポンサー企業が建設費用の一部すら負担しないのかという不信感が広がっています。

市民にとって理解しがたいのは、チームの活動によって直接的な利益を得る関係者が、施設建設という最も重要な投資に対して金銭的責任を負っていないという構図です。確かに、プロスポーツチームが地域活性化に一定の役割を果たすことは否定できませんが、公共施設を税金で建てて、その主な使用者が民間企業や興行団体であることに疑問を持つのは当然の感覚でしょう。

とりわけ、「ネオフェニックスのためのアリーナ」としての印象が強まれば強まるほど、市民の間には「それならチームやスポンサーが建設費を負担すべきでは?」という声が高まります。実際、「特定の団体のために、市民の税金を使うのは不公平だ」「市民に必要な福祉や教育の予算が削られるのでは」といった意見が数多く寄せられており、この問題は単なる財源論にとどまらず、市政全体の信頼性にも関わるものとなっています。

市としては「地域のための多目的施設」であると強調していますが、実際に誰が使い、誰が得をするのかという構図が市民にとって不透明なままでは、賛同は得られません。今後、行政やクラブ、スポンサー企業がどのように責任を分かち合うのか、そして市民にどう説明し、納得を得ていくのかが、計画の成否を大きく左右することになるでしょう。新アリーナは誰のための施設なのか?その根本的な問いに、今こそ明確な答えが求められています。

地域スポーツと公共投資のバランスを考える

「夢」と「現実」の間で問われる選択

新アリーナの建設は、地域スポーツの発展や市の活性化につながる大きな可能性を秘めています。三遠ネオフェニックスのような地元プロチームが全国で活躍する姿は、子どもたちの憧れとなり、まちの誇りともなり得るでしょう。また、大規模なエンターテインメントや文化イベントを開催できる施設があれば、これまで豊橋では実現できなかった新しい人の流れや経済効果も生まれるかもしれません。

一方で、こうした「夢」を実現するためには、現実的な負担と向き合う必要があります。約230億円という巨額の建設費だけでなく、完成後の維持管理費や更新費も長期にわたってかかることが予想されます。そのコストを一体誰がどのように負担するのか、市民生活にしわ寄せが及ばないのか、公共投資として本当に妥当なのか――これらは避けて通れない重要な論点です。

昨日、名古屋まで用事で出かけた際に、完成したばかりのIGアリーナの周辺を車で走ってみました。豊橋市で計画されているアリーナよりもはるかに大規模で立派な施設であり、地下鉄からのアクセスも良く、周辺道路も広く整備されていました。施設周辺には人の流れがあり、飲食や買い物の拠点としても賑わいを見せており、「名古屋とばし」という言葉も、これからはいくらか解消されていくのではないかと感じました。

その一方で、豊橋で計画されている新アリーナは、立地条件がまったく異なります。アクセス手段は市電くらいで、周辺道路も決して広いとは言えません。加えて、収容人数5,000人規模という中途半端な規模にとどまっており、「ここで全国レベルのイベントやライブが果たして開催されるのか?」という疑問も残ります。そもそも、豊橋は飛ばされることすら話題にならない地域という厳しい現実もあります。

今、問われているのは「アリーナを建てるか建てないか」だけではありません。限られた財源をどう配分するかという公共の意思決定であり、それは教育・福祉・インフラ整備など、市民生活全体に関わる問題でもあります。だからこそ、市民一人ひとりが意見を持ち、それを反映できる機会としての住民投票は極めて重要です。

行政には、こうしたプロセスを丁寧に、誠実に、そして透明に進める責任があります。また、市民や関係団体も、自分たちの立場だけでなく、まち全体の未来を見据えた対話が求められています。多様な意見を尊重しながら、最も納得感のある形での決定を導き出す。それが、今回の新アリーナ建設問題を通じて、豊橋市が本当の意味で「成熟したまち」へと歩み出す一歩になるのではないかと考えます。