2025年7月17日

豊橋新アリーナの住民投票の日が今週末に近づいてきました。ぼくは期日前投票ですでに終わっていますがこの期日前投票も豊橋市では随分と多くの市民が足を運んでいるとニュースで聴きました。それぐらい市民の関心が高いのでしょう。
ぼくも今回の住民投票についてどちらに投票するかの判断のために推進派、反対派両方の説明会に参加して自分なりの判断をし「反対に〇」をしてきたわけですがそのような判断をするに至った一つのきっかけとして豊橋新アリーナを求める会Neo主催の説明会があります。そのあたりのことは既にブログの記事にしているので興味のある方はそちらをご覧ください。

で、その説明会の第一部「スポーツで街を活性化」山谷拓志氏の講演でちょっと気になったことがあります。それは札幌ドームの現状と豊橋新アリーナの必要性を紐づけて話していた点です。
札幌ドームについて触れているのは53分くらいからです。発言の内容は是非そちらでご確認ください。上の動画はちょうどそのあたりから再生されます。
ぼくは札幌ドームができた時、札幌に住んでいたのであの辺のことは割とよく知っているつもりです。とりあえず札幌ドームについてまとめてみましょう。
札幌ドーム建設の背景と経緯
札幌市は「スポーツ都市札幌」を掲げ、プロスポーツの誘致や大規模イベントの開催を通じて都市活性化を図る構想を持っていました。
当時、北海道には本格的な全天候型多目的スタジアムが存在せず、屋内型の大規模スポーツ・コンサート施設の整備が望まれていました。
1995年、札幌市は「札幌ドーム建設基本構想」を発表。サッカー・野球の両方に対応する多目的施設とする方針が決まりました。
日本ハムファイターズが将来的に北海道移転を検討していたことも、構想の追い風となりました。
1996年、日本と韓国が共同で2002年FIFAワールドカップの開催国に決定。
札幌市は開催地に立候補し、スタジアム整備が急務となったため、札幌ドーム建設が加速されました。
設計は建築家・原広司によるもので、世界的にも珍しい「可動式サッカー場」を備えた構造が特徴です(天然芝フィールドを外で養生して必要時に移動)。
1998年に着工し、総工費は約422億円(建設費・用地費含む)でした。
2001年6月に竣工、同年6月3日にこけら落とし(日本代表 vs 南アイルランド戦)が行われ、正式に開業。
開業当初の主な使用チームは、Jリーグのコンサドーレ札幌(現・北海道コンサドーレ札幌)でした。
日本ハムファイターズが東京から北海道へ本拠地を移し、2004年から札幌ドームを本拠地として使用開始。
以後、サッカー・野球・コンサート・見本市など多目的に活用される施設となりました。
札幌ドームの特徴
所在地 | 北海道札幌市豊平区羊ケ丘 |
開業 | 2001年6月 |
収容人数 | 約41,500人(サッカー時)、約40,500人(野球時) |
特徴 | 可動式天然芝フィールド、空気圧可動屋根 |
札幌ドームの特徴は何といっても可動式天然芝フィールドです。サッカー用の天然芝のグラウンドは通常は屋外で管理されドームで使用するときには移動するというものです。
このように移動する場面は見ていませんが当時小学生だった長男を連れてサッカーの試合も野球の試合も両方観戦に行きました。同じドーム内にサッカー場や野球場があることにとても不思議な感じがしたのを覚えています。その他にも札幌ドームではBIG AIRとか大きなイベントも開催されていたと記憶しています。
札幌ドームでこれまで開催された大きなイベント
札幌ドームでは、2001年の開業以来、スポーツ、音楽、国際イベントなど多種多様な「大規模イベント」が開催されてきました。以下に主なものをジャンル別にご紹介します。
スポーツイベント
2002年 FIFAワールドカップ 日本・韓国大会(国際サッカー大会)
- 2002年6月5日、6月9日、6月14日(グループリーグ3試合)
- 主な試合:
- イタリア vs エクアドル
- ドイツ vs サウジアラビア(8-0の大勝)
- イングランド vs アルゼンチン(ベッカムのPKで決着)
世界的スター選手が札幌に集結し、世界中から注目を集めた歴史的イベントでした。
プロ野球・日本ハムファイターズ本拠地試合(2004年~2022年)
- 2006年・2007年・2009年・2012年 日本シリーズ開催
- 特に2006年の日本一決定試合は札幌ドームで行われ、地元ファンの熱狂は最高潮に。
- オールスターゲーム開催(2004年、2009年)
Jリーグ・北海道コンサドーレ札幌のホーム試合
- 定期的にJ1公式戦が開催。
- 特に2017年・2018年・2019年の好成績時には大観衆が詰めかけた。
BIG AIR(スノーボード/フリースタイルスキー)
- 1997年~2014年(2012年以降は札幌ドーム開催)
- 世界トップクラスのスノーボード選手が参加するビッグエア競技(ジャンプ系種目)
- 札幌ドーム内に高さ30メートル以上の巨大ジャンプ台を設置。
- ドーム内で人工雪を敷き詰め、真冬の札幌で熱気あふれる競技イベントとして大人気に。
世界的なスノーボーダーが札幌に集う「冬の風物詩」で、エンタメ性も高く、音楽と融合した演出が特徴的でした。
ノルディックスキー世界選手権
- 2007年開催
- ドーム内にクロスカントリー用の雪上コースを整備し、屋内でスキーマラソンを行うという世界でも稀な試み。
音楽ライブ・コンサート
嵐(ARASHI)
- 毎年のように札幌ドームでライブツアーを開催(特に2008年以降)。
- 地方で初の5大ドームツアー開催地として注目され、北海道経済への波及効果も大。
B’z、Mr.Children、EXILE、安室奈美恵、Perfumeなど
- 日本のトップアーティストによる5万人規模のライブが多数開催。
海外アーティスト
- マイケル・ブーブレ、レディー・ガガなど、海外スターの札幌公演も行われた。
その他の大規模イベント
北海道日本ハムファイターズの「ファンフェスティバル」
- オフシーズンに開催される人気イベントで、数万人が来場。
見本市・展示会・企業イベント
- スポーツ以外にも、「就職フェア」や「大規模販売展示会」なども開催されることがあります。
高校野球 北海道大会(開閉会式・準決勝以降)
- 近年は開催数が少なくなっていますが、一時期は屋内スタジアムとして重宝されました。
札幌モビリティショー
イベント実績のスケール
スポーツ | FIFAワールドカップ試合 | 約41,000人 |
野球 | 日本シリーズ | 約42,000人 |
音楽 | 嵐・B’zなどのドームツアー | 約50,000人 |
その他 | ファンフェスなど | 数万人規模 |
札幌ドームは「スポーツ」と「エンタメ」の両面で全国有数の実績を誇るスタジアムです。特にFIFAワールドカップのような世界規模イベントから、地域密着型のプロ野球やJリーグ、さらには国内外の音楽ライブまで、多彩な催しが行われてきました。
日本ハムが札幌ドームからエスコンフィールドへ移転した理由
日本ハムファイターズ(北海道日本ハムファイターズ)が札幌ドームから北広島市の「エスコンフィールドHOKKAIDO」へ本拠地を移転した背景には、経済的・運営的・戦略的な要因が複雑に絡んでいます。山谷氏は経済的な理由のみを強調されて話していましたが事実はそうではありません。以下に、時系列と要因別に詳しく説明します。
時系列で見る移転の流れ
2004年 | 日本ハムが本拠地を東京から札幌ドームへ移転(札幌ドームを本拠地とする) |
2016年 | 日本ハムが札幌ドームとの契約更新を見送り、他の本拠地を検討していると発表 |
2018年 | 北広島市が新球場誘致に成功。日本ハムが北広島への移転を正式発表 |
2020年 | 新球場の名称が「エスコンフィールドHOKKAIDO」に決定 |
2023年 | エスコンフィールド開業。日本ハムが正式に本拠地移転 |
移転の主な理由・背景
札幌ドームの使いづらさ
- 日本ハムは「賃貸契約」で札幌ドームを使用しており、収益の多くが札幌市(札幌ドーム株式会社)に流れていた。
- 例:グッズ売上や飲食売上は球団に入らず、ドーム運営会社に。
- 天然芝を運ぶ特殊構造のため、野球に不向きな設計(ベンチの位置、観客との距離など)。
- 芝の管理・施設運営に対する自由度がなく、演出やサービスに制限があった。
球団は「自分たちのアイディアを活かせる球場」を求めていた。
新球場を「自前」で持つメリット
- 北広島のエスコンフィールドは、球団親会社の日本ハムグループが主導して設計・運営。
- 球場そのものが「まちづくりの核」となり、商業施設、ホテル、温泉などと一体運営。
- チームのブランド戦略やファン体験を最大化できる「ボールパーク構想」の実現。
単なる試合会場ではなく、「365日集客できる観光地」としての機能も兼ねている。
自治体対応の差:札幌市 vs 北広島市
- 札幌市は球団の要望(賃料の見直しや運営協力など)に柔軟に対応せず、「貸す側」の姿勢を崩さなかった。
- 北広島市は球団の構想に共感し、40ヘクタール以上の土地を無償貸与、インフラ整備も積極支援。
- これにより球団側は北広島移転を決断。
エスコンフィールドHOKKAIDOと札幌ドームとの比較
項目 | 札幌ドーム | エスコンフィールド |
---|---|---|
所有 | 札幌市 | 日本ハムグループ |
収容人数 | 約41,000人 | 約35,000人 |
芝 | 野球用人工芝 | 天然芝(開閉式屋根) |
飲食・物販収益 | ドーム会社 | 球団側 |
アクセス | 都市中心部(地下鉄) | 郊外(JR+シャトルバス) |
周辺施設 | 住宅地 | 商業施設・ホテル・温泉併設 |
移転は「ビジネスモデル転換」
日本ハムの移転は、「球場=単なる会場」から「球場=利益を生むビジネス拠点」へと発想を転換した結果です。札幌ドームでの制約を乗り越え、球団が主導権を握る「ボールパーク構想」に踏み出した象徴的な事例といえます。
このように金銭的な部分も一つの理由ではありますが根本的には「ボールパーク」としてファンに野球を心から楽しんでもらうための施設が欲しかったということが主な理由でしょう。山谷氏は「エスコンフィールドに移ってから日本ハムは強くなった」なんていっていましたが札幌ドーム時代も強かった時期はありますから。
日本シリーズを制したときの駅前大通の優勝パレードはすごい賑わいでした。
札幌ドームを例に出すことの違和感
山谷氏の講演では、「札幌ドームの失敗」を例に出しながら、「だから豊橋にはアリーナが必要だ」と語っていました。しかし、話を聞いていて違和感を覚えたのも事実です。
札幌ドームの失敗とは、要するに「使う側(日本ハム)と持つ側(札幌市)の関係がうまくいかなかったこと」、そして「利用者が望む柔軟な運用ができなかったこと」にあります。球団はそれに対するカウンターとして、自分たちで自由に設計・運営できる球場を北広島に作った。つまり、課題は「施設があるかどうか」ではなく、「どのように運営するか」という点にあったのです。
それを「施設がなかったからダメだった」「だから豊橋に作るべき」という論理にすり替えるのは、かなり無理があるように思います。そもそも日本ハムの話に紐づけるのならフェニックスがアリーナを自分たちの好きなように作ればいいということになってしまいます。
それに札幌ドームは、FIFAワールドカップの開催をきっかけに、国際的な競技を受け入れるために整備された特殊な例ですし、人口規模や都市インフラ、球団の戦略も、豊橋とはまったく条件が異なります。
そうした条件の違いを無視し、都合の良い部分だけを切り取って豊橋アリーナ建設の正当化に使うのは、少なくとも公平な情報提供とは言いがたいのではないでしょうか。

ま、推進派の主催する説明会だから仕方ないか。