2025年7月15日

ぼくの仕事はウェブ屋です。ウェブ制作や保守運用の仕事をしています。仕事用のウェブサイトでは、時折ブログ記事も投稿していて、身の回りで気づいたことや、ちょっとしたウェブサイト運営のコツみたいな話も書いたりしています。
そんなブログ記事の中に、国政選挙のたびにアクセスが急増するものがあります。
その記事のタイトルは「らじるらじるでは政見放送が流れない」
これは、NHKのインターネットラジオサービス「らじるらじる」では選挙期間中に放送される政見放送が聴けない、ということを説明した記事です。公開したのは8年前。にもかかわらず、いまだに国政選挙のたびに検索から訪問され、アクセスが跳ね上がります。
つまり、8年間変わらない現実がそこにあるのです。
らじるらじるでNHKラジオを聴いている人の多さ
NHKのインターネットラジオ配信は2011年に開始されました。インターネット配信が始まった理由は「都市部での受信障害の増加」です。そして現在では実に多くの人がらじるらじるでNHKラジオを聴いています。通勤や通学の電車内や地下道、高層ビルの陰など電波の届かないところで聴いている人も多いでしょう。
ところが政見放送が流れる時間になるとらじるらじるでは音楽が流れてくる。政見放送は流れていません。
「なぜ?」
「不具合?」
「違法なの?」
そんな疑問から検索する人が多く、その結果、ぼくのブログ記事にたどり着くというわけです。
記事ではその理由を、公職選挙法と放送法の関係から簡単に解説しています。要は、政見放送は「電波による放送」に限定されていて、インターネット配信は含まれていないため、「らじるらじる」では流せない、というわけです。
しかし、それが8年も変わらずに続いている。
一方、YouTubeでは政見放送が視聴できる
ここで、もう一つ重要な視点があります。
YouTubeでは、各政党や候補者のチャンネルで政見放送がフルで配信されているという事実です。
NHKがネットで政見放送を流すことは禁止されているのに、政党や候補者自身が同じ内容をYouTubeにアップロードするのは問題になっていません。
この矛盾、ちょっとおかしくないでしょうか?
ネットを活用して発信している政党や候補者ほど、より多くの有権者に政見放送を届けられる。一方で、ネット環境に依存しない中立的な情報源としての「公共放送」は、ネット配信の手段を封じられている。
法制度がYouTube登場以前の時代から更新されていないのがよくわかります。
なぜ制度は変わらないのか
政見放送のネット配信については、これまでにも何度か議論されてきました。放送とネットの違い、公平性の担保、編集・拡散リスクなど、懸念点はあるにせよ、「聴ける人」と「聴けない人」の格差が放置されている状況は看過できないと思います。
特に若い世代の有権者の多くが、テレビもラジオも持たず、YouTubeやPodcastなどのネットメディアを通じて情報を得ています。その一方で、公的な情報は「昔ながらの手段」でしか提供されていない。
このズレは、いずれ民主主義そのものに影響を与えるかもしれません。
この記事が役目を終える日を願って
「らじるらじるでは政見放送が流れない」。
このタイトルの記事がいまだに現役で検索されていることに、正直うれしさよりも複雑な気持ちがあります。
ネット放送が可能になって、誰でもどこでも中立な政見放送を聴けるようになる。
そのとき、この記事は自然と検索されなくなるでしょう。
記事が読まれなくなる日、それは、「制度が時代に追いついた日」でもあります。
技術は進んでいるのに、法律が足を引っ張っている。そんな風に感じている人は、ぼくのほかにもきっとたくさんいるはずです。声を上げること、伝え続けることが少しでも社会の変化につながることを願って、この記事もまた、静かにネットの片隅に残しておこうと思います。
